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ルーティンの組み方

ルーティンを2つの軸に分解する

ルーティンの設計は無数の選択肢を持つように見えるが、実際には少数の軸の組み合わせに還元できる。最も上流にあるのが、目的(何のために鍛えるか)と経験レベル(どれだけ鍛えてきたか)の2軸である。

目的はレップレンジを決める。最大筋力なら低レップ高負荷、筋肥大なら中レップ、筋持久なら高レップ、というように、求める適応に対応した刺激域がレップレンジとして表れる。経験レベルは週次ボリュームの出発点を決める。初心者は少ない刺激でも成長し、中級者以降は刺激の多様性と量が必要になる。

この2軸が定まると、残りの設計判断はそこから連なって決まる。分割と頻度は、決まった週次ボリュームを何日のトレーニングに配分するかの器であり、進行ダブルプログレッション / リニアプログレッション)は目的とレベルから選ばれ、ディロードはその進行が停滞したときの復旧手段として組み込まれる。本記事では、この連鎖を上流から順にたどる。

目的がレップレンジを決める

ルーティンの目的は、そのルーティンで主に動かすレップレンジを決める。古典的なトレーニング書籍では、目的別にレンジを3つに分けて扱う(ACSM, 2009)。

3区分は分類であって処方箋ではない。コンパウンド種目(複合関節種目)は関節と腰背部への負荷を考慮して低-中レップ域寄りが扱いやすく、アイソレーション種目(単関節種目)は中-高レップ域で運用するのが標準である。目的が決めるのはルーティン全体の中心域であり、種目特性に応じてその中で調整する。詳細はレップレンジの選定で扱った。

経験レベルがボリュームを決める

同じ目的でも、トレーニング歴が浅い人と長い人では、週あたりに与えるべき刺激量が異なる。週次ボリュームの設計指標がボリュームランドマーク(MEV / MAV / MRV)である(Israetel et al., 2021)。

これらの値は経験レベルで変動する。初心者はMEVが低く(少ない刺激でも成長する)、MRVも低い(高ボリュームへの適応が未完成)。上級者は逆で、基礎刺激量が大きいほどMEVも上昇し、MRVへの耐性も高まる。このため初心者のルーティンはMEV近辺の控えめなボリュームから始め、中級者以降はMAV域で運用する、という出発点の違いが生まれる。Schoenfeld et al.(2017, Journal of Sports Sciences)のメタ解析では週あたりのセット数と筋肥大の間に用量反応関係が示されているが、この関係は無制限ではなく、MRVがその頭打ちの位置を部位ごとに名付けたものと理解できる。

公開テーブルの数値は集団平均から導いた出発点にすぎない。同じ経験レベル・体格でもMEVとMRVには大きな個人差がある。テーブル値は「ここから始めて、自分のデータで校正していく出発点」であり、絶対値ではない。詳細はボリュームランドマークとMEV/MAV/MRVを参照。

頻度と分割が週次ボリュームを配分する

目的がレップレンジを、経験レベルが週次ボリュームの出発点を決めたら、次はその週次ボリュームを何日のトレーニングに割り振るかを決める。これが頻度と分割の役割である。

プログレッシブオーバーロードの整理では、過負荷を与える軸の中に頻度(同じ部位を週に扱う回数を増やす)が含まれる(Stone et al., 2007)。分割は、週次の総ボリュームを変えずに、それを何回のセッションに分けて消化するかを決める器である。代表的な3つの形がある。

分割の選択は、まずトレーニングに割ける日数(頻度)から考えると素直である。頻度は自己申告の願望ではなく、スケジュールの事実として決まるからである。少ない日数なら各回で全身を扱って部位ごとの頻度を確保し、多い日数なら部位を分けて1回あたりの集中度を上げる、という対応になる。いずれの分割でも、各部位の週次の有効セットがボリュームランドマークの帯(経験レベルに応じたMEV / MAV / MRV)に収まるかどうかが、分割が機能しているかの判断基準になる。分割は週次ボリュームを配分する器であって、ボリュームそのものを増やす手段ではない。

進行とディロードを組み込む

分割が決まっても、それは「ある1週間の器」にすぎない。ルーティンが時間とともに成長するには、週から週へ負荷をどう前進させるか(進行)と、前進が止まったときどう復旧するか(ディロード)を組み込む必要がある。

進行手法は目的と経験レベルから選ばれる(プログレッシブオーバーロード)。最大筋力目的や1年未満の初心者にはリニアプログレッション(固定レップで毎回重量を上げる)が扱いやすい。神経適応の余地が大きいため、単純な前進方式で進歩を引き出せる。筋肥大目的の中級者にはダブルプログレッションが中心になる。レップレンジ内でレップを増やし、上限到達で重量を1段上げてレンジ下限から再構築する2軸運用で、停滞判定がより緩やかになる。Plotkin et al.(2022)は、重量増のみを許す群と重量据え置きでレップを増やす群の双方が筋肥大と筋力増を有意に伸ばしたことを示し、「レップでまず進歩、重量は累積結果として上げる」順序の根拠を補強している。

追い込み度は、レップレンジとは別にRIR(Reps in Reserve)で管理する。同じ8レップでも、RIR 0(限界到達)とRIR 3(3回余裕を残す)では刺激が大きく異なる。RIRはその日のコンディションに応じて負荷を調整するオートレギュレーションの核となる測定単位であり(Helms et al., 2016)、Helms et al.(2018)の整理では、ほとんどのワーキングセットをRIR 1-3の範囲、限界の手前で止めるほうが週次のボリューム維持と長期的な進歩の両立に有利とされる。

前進が止まったときの復旧手段がディロードである。連続失敗(レップレンジ下限を連続して下回る)が出たら一時的に負荷を下げる。ディロード幅はダブルプログレッションで-5%、リニアプログレッションで-10%が標準で、レップというバッファが進歩判定を寛容にしているダブルプログレッションのほうが浅い削減で済む。Israetel et al.(2021)のボリュームランドマーク枠組みでも、MEV近辺からMAVに登りMRVに到達したらディロードで初期化する蓄積サイクルが基本構造として示されている。詳細はディロードの判断基準を参照。

DELTの4スターターテンプレートへの対応

以上の原則の組み合わせとして、DELTは4つのスターターテンプレートを用意している。テンプレートは「経験レベル × 目的 × 分割」の代表的な組み合わせをカバーし、初心者から中級者まで、筋力と肥大の両方向、全身・PPL・上下の3分割を含む。各テンプレートが上記のどの原則の束ねかを、以下に対応づける。

4スターターテンプレートと設計原則の対応
テンプレートレップレンジ(目的軸)ボリューム(レベル軸)分割・進行
初級・全身筋肥大の6-12が中心(レップレンジ)初心者のためMEV近辺の控えめなボリューム(ボリュームランドマーク)全身を反復する分割。コンパウンド中心で、初心者でも進歩を引き出しやすい構成
中級・PPL(肥大)筋肥大の6-12が中心(レップレンジ)中級者のためMAV域で運用(ボリュームランドマーク)Push / Pull / Legsの3分割。部位を絞り、ダブルプログレッションとRIRで進行を管理(ダブルプログレッション、RIR)
中級・上下分割(肥大)筋肥大の6-12が中心(レップレンジ)中級者のためMAV域で運用(ボリュームランドマーク)Upper / Lowerの2分割。1回あたりの部位を絞って各部位にボリュームを充てる構成
中級・上下分割(筋力)最大筋力の1-6が中心(レップレンジ)低ボリューム高強度(ボリュームランドマーク)Upper / Lowerの2分割。主要コンパウンド中心で、最大筋力に向く低レップ高負荷の構成

4つのテンプレートはいずれも、本記事で束ねた原則の特定の組み合わせにすぎない。テンプレートを起点にしてもよいし、原則を理解した上で1から自分のルーティンを組んでもよい。テンプレートは「処方」ではなく「出発点」である。

重量は値でなくプロセスで渡す

DELTのスターターテンプレートは、種目・レップ域・分割を提示するが、具体的な重量(kg)を初期値として入れない。適切な重量は種目・個人・トレーニング歴・日々のコンディションで大きく変わるため、根拠なく特定の数字を提示することは、DELTの「根拠のない主張をしない」という原則に反するからである。

代わりに渡すのは、重量の「探し方」というプロセスである。履歴のない種目では、まず軽めの重量から始め、目標レップ域(例: 6-12)で「あと数回できる」余裕(RIR)を残せる重さを、数セットかけて探って調整する。これはRIRとオートレギュレーションで扱った、負荷の絶対値ではなく主観的強度の相対値をプログラムの単位とする発想そのものである(Helms et al., 2016)。2回目以降のセッションでは、本人の実際の記録が次回の出発点になる。記録に基づく目安が、最も誠実な提案である。

「何kgを挙げろ」という値ではなく「自分に合う重さの見つけ方」というプロセスを渡す——これがルーティン設計におけるDELTの一貫した姿勢である。

実践への落とし込み

ルーティンを1本組むときの流れは、上流の2軸から下流へ順にたどると整理しやすい。

  1. 目的とレベルを決める: そのルーティンで主に求める適応(最大筋力 / 筋肥大 / 筋持久)と、自分のトレーニング歴を確認する。目的が中心のレップレンジを、レベルが週次ボリュームの出発点を決める。
  2. 頻度から分割を選ぶ: 週に確保できるトレーニング日数を事実として確認し、それに合う分割(全身 / 上下 / PPL)を選ぶ。各部位の週次セットが、経験レベルに応じたボリュームランドマークの帯に収まるかを点検する。
  3. 進行とディロードを決める: 目的に応じて進行手法(リニア / ダブルプログレッション)を選び、追い込み度をRIRで管理する。連続失敗時のディロード幅(ダブルなら-5%、リニアなら-10%)をあらかじめ決めておく。
  4. 重量はプロセスで埋める: 初期値の重量は入れず、初回セッションで目標レップ域とRIRから探る。2回目以降は記録に基づく目安を出発点にする。

ルーティンは固定された設計図ではなく、記録と校正で書き換えていく前提の枠組みである。テンプレートも自作ルーティンも、最初の数サイクルは提案通りに愚直に踏み、自分のデータが溜まってから調整するのが、最も再現性の高い進め方である。

よくある質問

ルーティンを組むとき、最初に何を決めればよいですか?
目的と経験レベルの2つです。目的(最大筋力 / 筋肥大 / 筋持久)がレップレンジを決め(最大筋力1-6 / 筋肥大6-12 / 筋持久12-20、ACSM, 2009)、経験レベルがボリュームの出発点を決めます(MEV/MAV/MRVは経験レベルで変わり、初心者は低めに設定されます。Israetel et al., 2021)。この2つが決まれば、分割・頻度・進行はそこから導けます。
全身 / 上下分割 / PPLはどう選べばよいですか?
分割は週あたりの目標ボリュームと頻度をどう配分するかの器です。週次のセット数と頻度をどう設計するかは目的とレベルが決め(ボリュームランドマーク、プログレッシブオーバーロード)、その総量を週何日のトレーニングに割り振るかを分割が担います。少ない頻度なら各回で全身を、多い頻度なら部位を分けて配分する、という対応になります。
ルーティンに重量はあらかじめ入れておくべきですか?
DELTはルーティンに具体的な重量を初期値として入れません。適切な重量は種目・個人・日々のコンディションで変わるため、根拠なく特定のkgを提示することはしません。代わりに、目標レップ域で数回の余裕を残せる重さを軽めから探る、というプロセスを渡します。RIR(Reps in Reserve)を使えば、当日のコンディションに応じて負荷を調整できます(Helms et al., 2016)。
進行とディロードはルーティンにどう組み込みますか?
筋肥大目的ではダブルプログレッション(レップレンジ内でレップを増やし、上限到達で重量を上げる)が中心になり(Plotkin et al., 2022)、最大筋力目的ではリニアプログレッションが扱いやすくなります。停滞や連続失敗が出たときに一時的に負荷を下げるのがディロードで、ダブルプログレッションでは-5%、リニアプログレッションでは-10%が標準です。
初心者と中級者でルーティンの組み方はどう違いますか?
経験レベルでボリュームと進行手法が変わります。初心者はMEVが低く、少ない刺激でも成長するため低めのボリュームから始め、神経適応の余地が大きいリニアプログレッションが効率的です(プログレッシブオーバーロード)。中級者は刺激の多様性が必要になり、MAV域でのボリューム運用とダブルプログレッションが中心になります。

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参考文献